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2024年9月の学会発表時のスライドを当サイトでの公開用に一部改変したものです。
本シートは、発達障害特性による職業生活上の困りごとを抱えた人(当事者)と、その人を支援する周囲の人々の困り感を減らすツールとして、当社代表取締役(須藤千尋)が、精神科医である松澤大輔先生(株式会社ライデック/新津田沼メンタルクリニック)との共同研究によって開発したものです。
障害者雇用促進法で定める合理的配慮の形成のために必要な当事者と職場関係者とのコミュニケーションを、冷静かつ円滑にすることができるように工夫を凝らしたつもりです。
発達障害特性に悩む当事者が、自身の課題や成長を冷静に振り返るために使うこともできます。
自由にご利用いただけます。
また、お問い合わせフォームからぜひご感想をお聞かせください。
本シートの開発と利用方法の提案をテーマにした学術発表(下記に概要)は、2024年9月に開催された日本産業保健法学会第4回学術大会において優秀演題賞をいただきました。
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演題名
須藤千尋,松澤大輔.発達障害者の多様性に対応した合理的配慮の模索 ~発達障害特性見える化シートの開発と運用~
発表者
須藤千尋/松澤大輔(株式会社ライデック/新津田沼メンタルクリニック)
発表内容(抄録)
【背景・目的】発達障害は、脳の機能異常を基盤とする能力の極端な偏り、対人関係の形成困難、感覚の過敏さや鈍感さなどの特性(発達特性)を生得的に持つ一群の精神障害である。発達障害は統合失調症や躁うつ病などと共に、平成28年4月改正以降の障害者雇用促進法を法的根拠として、雇用場面における合理的配慮提供の義務の対象となっている。合理的配慮指針には業務指示の明確化などの配慮例が示されているが、同一の障害名でも特性に大きな個人差があるため、これらの配慮例を一律に適用することは適さない。
障害者本人や主治医、職場関係者の意向を踏まえ、合理的かつ成長意欲を高めるような配慮内容をオーダーメイドで調整するには、発達障害に関する理解不足がしばしばハードルとなる。発達障害者への配慮のあり方について、職場関係者から産業保健職者に意見を求められることはよくあるが、発達障害に関する十分な知識を持つ産業保健職者は多くない。
発達障害者が職場の有力なメンバーになるためには、職場が合理的配慮を提供し、その合理性を本人が理解して感謝し、健全な努力で職場に貢献したくなるという好循環を作ることが有効である。そこに必要なコミュニケーションを促進するツールを、発達障害当事者、産業医、精神科医の視点を盛り込んで作成した。このツールを職場における配慮形成の支援に利用した結果、有効であるとの実感を得たので、ここに紹介する。
【方法】発達障害と複数の精神疾患を持つある労働者が課題整理のために自発的に作っていたExcelファイルをもとに、産業医、および発達障害を専門とする精神科医の知見を反映させて「発達障害特性見える化シート」を作成した。
私生活を含む職業生活上の事柄を網羅するよう、生活、勤務全般、デスクワーク、現場作業、スケジュール管理、休養と体調管理、コミュニケーションといった13領域にわたる計165項目を選定した。項目選定に際しては、全年齢の適応的行動能力を評価するVineland-II適応行動尺度も参考にし、就職後に初めて発達障害を疑われた者(いわゆる「大人の発達」や「グレーゾーン」)の障害特性の強さを想定した。各項目について、当事者が持つ自覚的な得意さ/不得意さを0点[不得意]~20点[得意]の範囲で入力するとその数値が棒グラフ状に表示されるほか、具体的な困りごと、対応方法、相談先を自由記述で入力できる欄を設けた。いずれの欄も回答を必須とせず、また任意に項目を増やせるようにした。
本シートの運用は、発達特性に基づく困りごとを抱えた労働者自身による入力を起点とした。それを産業保健職者が本人の自律的な職場適応の支援に用いたほか、入力済みのシートから産業医が職場での配慮に必要な項目に抜粋したものを本人の同意を得て上司へ共有し、職場で配慮内容を検討する時の参考に供した。同様に主治医にも共有し、職場が提供可能な配慮の説明とさらなる調整に利用した。シートの利用主体は本人である旨を明示し、本人の責任の下に関係者間で共有することとした。
【結果、印象】合理的配慮の形成支援のために本シートの利用を含むフォローを行った事例で、疾病性(病識、受療行動・援助希求行動、不調の発生頻度)と事例性(不納得感の表出、欠勤・早退等)の改善が確認された。
【考察】合理的配慮の形成に必要なコミュニケーションの促進ツールとして、本シートはある程度有効であるようだ。自記式の表計算ファイルという性質上、本シートを利用可能な対象者は限定される。より幅広い対象者へ適用可能にするためには、構造化面接形式に発展させるなどの改善が必要である。